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Insights
シリーズ概要

 2023年10月、ITIはキャンベル・アカデミーの提供によるデジタル・デンタル・アントレプレナー・プログラムを開始した。この革新的でインタラクティブなオンラインモジュラーコースは、歯科医師がビジネスコンセプトの知識を強化・向上させ、診療、チームおよび患者体験を向上させることを目的としている。このコースが、新世代の歯科医師を刺激し、歯科医師自身とチームの労働環境を改善することで、歯科医師の満足度、幸福度、歯科業界に対する熱意を向上させることが期待される。

 このコースは4週間にわたって6つのモジュールで構成され、ビジョン設定、歯科医院の財務、マーケティング、人事とリーダーシップ、営業と戦略、そして社会的遺産と企業の社会的責任に関するディスカッションが含まれる。

 このコースの立ち上げにともない、実践者の理解と学習を助け、コースの教材を補強するために、コースの各モジュールを題材とした一連の短い論文が考案された。このコースが必要であり、また実際にこのような出版物が必要であると感じたのは、世界中の医療従事者が圧倒され、燃え尽き、組織運営の難しさに苦しんでいることは明らかだからである。多くの研究やエビデンスがあり、米国では医師の燃え尽き症候群が50%近くに達するケースもあると報告されている(Shanafelt et al.2012)。イギリスでの最近の研究では、43%の開業医が歯科医療で手一杯であると答えている(BDJ 2019)。しかし、これの悲しいところは、50%以上の開業医が逆にそうではないということである。確かに、燃え尽き症候群やストレス、幻滅につながるもののひとつに、管理業務や非臨床業務の負担を軽減するための組織体制や戦略を作り、育てることができないことがある。歯科ビジネスにおいてすぐれた構造を開発することは、開業医の生活を改善し、潜在的に彼らの仕事に対する評価と満足度を向上させるだけでなく、チームの生活、サプライヤーとパートナーの関係、そしてもっとも重要なことは、患者の転帰を改善することである。

 この連載は、キャンベル・アカデミーが提供するITIデジタル・デンタル・アントレプレナー・プログラムと連動しており、世界中の開業医の臨床教育と能力開発を強化し、最終的には世界中の患者の生活を向上させるというITIの願望を実現するためのものである。

イントロダクション

 ビジネスのビジョンを設定することは、向上心のある、あるいは不必要とさえ思える目標に思えるかもしれない。特に、回転率が絶対的に重要な中小企業の忙しい仕事の世界ではそうであり、哲学に取り組む時間は資源の無駄に思えるかもしれない。

 しかし、これほど真実からかけ離れたことはない。

 ビジネスのビジョンを設定することは、たとえあなた一人だけのビジネスであったとしても、ビジネスを成功に導くための基本である。ビジョン、価値観、そしてミッションを設定することのメリットは、ビジネスをあるべき姿へと導く指針となる。もちろん、地図なしに複雑な旅に出ることは不可能だ。そうでなければ、まったく予定していない、まったく間違った場所にある目的地に到着することになる。また、ビジネスや組織を構築していく中で、倫理的な岐路に立たされることも明らかで、そこでは極めて困難で複雑な決断が迫られる。ビジョンと価値観、そしてミッションがあれば、そうした決断をより簡単に、より効果的に下すことができるようになる。だからこそ、ビジョン設定が不可欠なのである(図1)。

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図1: ビジネスを構築する。写真クレジット:Stuart Reekie Photography(イギリス)

 新しいベンチャーに参入するのであれば、ビジョンを設定することは当然の出発点であり、ビジネスを最初からどのようにデザインするかを決めることになる。そのときのビジョンは、簡単で明白なものに思えるかもしれない。しかし、すでにビジネスの現場にいて、自分がどのような方向に進んでいるのか、何年か前に下したビジネス上の決断が今の自分にとって正しいのかどうか疑問に思っているのであれば、それはずっと難しく思えるかもしれない。

 いずれにせよ、前進するための明確な指針を得るためには、時間を取ってビジョン設定の原則に立ち返ることが絶対に必要だ。明確なビジョンを持って前進している企業の例は枚挙にいとまがない。また、そうでない企業の例もたくさんある。実際、ハーバード・ビジネス・レビューによると、経営幹部チームの85%以上が戦略的アプローチに従っておらず、戦略について議論する時間は月に1時間未満にとどまっている(Olson 2022)。これは、ビジネスのどのレベルにおいても愚かなことのように思える。